将棋界から見える危機。AIは人類の敵なのか

『聖の青春』という映画が公開され、『3月のライオン』のアニメが放映中、実写映画も公開間近、さらに、62年ぶりにプロ入り最年少記録を更新など、何かと前向きな話題の多い昨今の将棋界。

しかし、2016年の下半期にはとある事件で揺れ、負の話題が先行してしまいました。それは、三浦弘行九段が将棋ソフトによるカンニングをしていたという疑惑です。

年末、疑惑が晴れたものの、将棋連盟の対応に疑問の声が上がっているという現状。まだまだ負の話題が続いてしまうのかと思うとため息がこぼれてしまいます。

将棋ソフトによる疑心暗鬼から生まれたこの騒動。そんな将棋ソフトの『今』を考えてみたいと思います。

プロも唸る。将棋ソフトの一手

「人間には指せない手ですね」

これは、電王トーナメントやプロ棋士対将棋ソフト(将棋電王戦)の試合でよく聞かれる言葉です。

将棋ソフトが定跡の破り手を見つけたという記事にもありますが、将棋ソフトには人間の常識など通用しません。プロから見ると無理攻めであるような、経験による感覚を無視した手を、深く先を見通して打つことができる。それが最近の将棋ソフトです。

電王戦が誕生し、プロとの対戦が増えてきた頃から、将棋ソフトの強さは日進月歩で成長を続けています。プロに勝つことは、すでに普通のことになり、2016年の電王戦では対戦相手の山崎隆之八段に一切のすきを与えない勝利をあげています。

プロに引けを取らないどころか、プロを凌駕するのが昨今の将棋ソフトです。

現最強ソフト『ponanza』

矢倉という定跡の常識を覆したのが、『ponanza』というソフトです。詳しくは下記の記事を参考してください。

「これからの相矢倉」からponanza新手に対する見解

電王トーナメントの勝者対プロ棋士によるトーナメント(叡王戦)の勝者で行われるようになった2016年の電王戦。山崎隆之八段に勝利したのがこのponanzaです。
過去に公の場で初めてプロを破ったソフトでもあるため、その知名度は高く、「将棋ソフトといえばponanza」と考えている人も多いでしょう。

ponanzaの存在が際立つのは、序盤の強さです。

プロと差があったころから、将棋ソフトは「終盤の強さ」には定評がありました。積みがあるかを確認するときなど、その当時から研究に使われていたそうです。
逆に、指し手が広すぎる序盤ほど、ソフトは苦手としていました。ですので、序盤はプロの定跡を判断材料にすることしかできませんでした。

しかし、ponanzaは他のソフトよりも早く、そんな序盤にも独自の手を打つことができるようになりました。それが『人間では指せない手』に繋がるわけです。そしてその結果、ponanzaは将棋ソフト界のトップに君臨したのです。

人間はAIに敵わないようになってしまうのか

2017年、第二期電王戦

ponanzaはさらなる進化を遂げ、昨年のバージョンを相手に9割ほど勝つまでに強くなったそうです。今回の電王トーナメントでも優勝したponanzaは、またしてもプロ棋士と対戦することとなります。その相手は、現役トップ棋士の一人、佐藤天彦名人です。

名人といえば、七冠と称されるタイトルの中でも、竜王と並んで頂点に立つタイトルです。そんなトップ棋士との対局は、人間対ソフトの歴史に深く刻まれるものとなることでしょう。

2007年に渡辺明竜王(現在、当時ともに)がBonanza(奇しくもponanzaの参考となったソフト)と対局したとき以来のタイトルホルダーとの一戦。このときは渡辺明竜王がbonanzaを退けましたが、10年で大きく進化した将棋ソフトを相手に、現在の名人がどのような結果を残すのでしょうか。

大方の見方では……

前回の山崎隆之八段対ponanzaの電王戦に関して、『3月のライオン』の監修でもおなじみの先崎学九段がこのような記事を書いていました。

今のプロ棋士で、コンピュータより人間――我々プロ棋士が強いと本気で思っている者は、ほとんどいない。

プロの棋士でも、人間よりソフトが強いと感じている。そんな現実が語られています。それを踏まえても、佐藤天彦名人には『人類の代表』としてがんばってもらいたいものです。

AIは人を助けるために作られる

思い出す将棋星人コピペ

将棋ファンの間で有名な、こんなコピペがありました。

おまえら、もし地球に将棋星人が攻めてきて、向こうの大将と
地球代表が将棋一番勝負で対決し、負けたら植民地にされる
という事態になったら、地球代表は絶対羽生でないとイヤだろ?
ーー中略ーー

羽生をけなしてるやつは地球規模で考えるんだ

当時、二冠にまでタイトルを減らしていた(十分凄いんですが)羽生善治現三冠。衰えたんじゃないか、という声の中で書かれたのがこの文章でした。

奇抜でありながら妙な説得力により有名になったこのコピペ。確かに人類の代表としてなら、棋界のレジェンドである羽生先生しかあり得ないと思わされてしまいます。

そこで「あれ?」と思います。人類の尊厳をかけた戦い……まるで電王戦みたいじゃありませんか。

これじゃあ将棋星人=ponanzaという方程式が成り立ってしまいます。

将棋ソフトは将棋が好きな人の味方である

いやいや、将棋ソフトとは人が生み出したものです。決して敵対する相手ではありません。

プロ棋士の中でも、最近では将棋ソフトによる研究がより盛んに行われています。自らソフトによる棋力の向上を断言する千田翔太六段は、最近の成績が良く、今期はタイトルにも挑戦しているほど頭角を現しています。

将棋ファンとしても、将棋ソフトがあることで対局を見る視点の幅が広がります。
最近は将棋ソフトの評価値を将棋の中継で用いられることがあります。これは、スポーツのように点数で優劣が表示されることで、将棋への興味が薄い人でもわかりやすく楽しめるものになり、より多くの人が見る良いきっかけになるのではないでしょうか。

まとめ

最年少プロ棋士誕生の際、棋士のことを「AIに仕事を奪われていく職業」と揶揄した発言を目にしました。しかし、将棋ソフトの進化は、決して将棋を衰退させるものではないと思います。
前向きに考えることができるなら、むしろ発展へと繋がるきっかけになります。

これは将棋ソフトだけではなく、AI全般に言えることかもしれません。
確かに仕事を奪われることはあるかもしれませんが、まだまだ不便な世の中において、AIは強い味方なのです。

……もし、本当に将棋星人が現れたなら、

その時はponanzaの力を借り、人類とともに戦ってもらいたいものですね。

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